松森 向陽子
岬端の電話ボックス鷹渡る
義足鳴る石蕗の岬や扶桑の忌
目高には目高の暮し水の秋
裏町や木犀の香とパンの香と
香陽の大きな鼻孔檪散る
灯されて水の急げり十三夜
日月にもう拘らず破れ芭蕉
ふる郷の生粋のこの竜の玉
大花野駈け晩年は奔放に
九泉の紅葉のいろを尋ねたし
井口 さだお
神官のよちよち歩き秋祭り
祭り獅子まだ舞ひ止めぬ午後七時
鬩(せめ)ぎ合ふ山霧川霧瑞穂(みずほ)橋
美はしき山を零れて尉鶲(じようひたき)
嫁菜てふ優しき野菊吹かれをり
男山と呼ばるる山の女郎花
誰も居ぬ空我がものと鵙猛る
宮詣り欠かさぬ人や神の留守
夕暮れの美を極めたり枯芒
熟れ柿を鳥に任せて過疎の山
西沢 和子
風の秋人を攫つてゆきにけり
骨壷の思はぬ重さ曼珠沙華
鉦叩机上にのこる愛読書
露草や「おはやう」の声今朝はなく
屍のせ熱田津を出づ月の舟
はらからや遺影を囲み月見酒
十六夜や門灯ひとつ消えしまま
細りゆく我が影を踏む良夜かな
谷本 一善
秋の旅ふらりと北の切符買ふ
どよめきて海へ投げこむ荒神輿
新米を炊く香のこもる夕厨
海の風正面に受け稲架の列
立冬や命のけむり母の灸
玩ぶ机の中の木の実独楽
揺れ止まぬ張り子の虎の秋思かな
自然薯を掘る山の音遠谺
高藤 士千子
少年が胡桃の部屋に迷ひ入る
式部の実色深ければ秘密めく
稲刈つて山田素顔をさらけ出す
けむり茸踏みて足裏にある不安
強情と頑固はちがふ温め温洒
実石榴や石の狐にけとばされ
簡単に自説を曲げておでん酒
綿虫のよくとぶ日なりまさをの忌